ソウルの街歩き、Googleマップだけでは道に迷う理由と頼れる地図アプリ

5,000分の1。ソウルを歩く旅行者のスマートフォンの中で、この縮尺の地図データが、20年近く問題になってきました。

世界中どこへ行ってもGoogleマップを開けば歩いて目的地に着ける——そう思っている人ほど、韓国では少し戸惑うことになります。地図はちゃんと表示されるし、店の名前も口コミも出てくる。それなのに、肝心の「ここからどう歩けばいいか」が出てこないのです。

地下鉄の乗り換えは教えてくれる。駅を出てからは教えてくれない

韓国でGoogleマップを使うと、できることとできないことがはっきり分かれます。店や観光地の情報、口コミ、そして地下鉄やバスを使った公共交通の経路は表示されます。一方で、徒歩や車のターン・バイ・ターン(曲がり角ごとの)案内は提供されていません(CNN)。

困るのは、この境目が旅行者の動線のど真ん中にあることです。明洞や東大門のような大きな駅は出口の数が多く、どの出口から出るかで、地上に出たときの位置がまるで変わります。公共交通の経路は駅まで連れてきてくれても、出口を出た先の数百メートルは、地図とにらめっこしながら自力で歩くことになる。北村(プクチョン)の韓屋の路地のように、細い坂道が枝分かれしている場所では、なおさらです。

写真: S h y numis / CC BY-SA 4.0

理由は、スマホではなく国境にある

アプリの不具合でも、通信環境のせいでもありません。原因は、韓国の法律です。

韓国は、縮尺5,000分の1の精密な地図データを国外のサーバーに持ち出すことを、安全保障上の理由から厳しく制限してきました。朝鮮半島はいまも休戦状態にあり、軍事施設などの位置が詳しく国外に出ることを警戒しているためです。Googleは2007年と2016年にこのデータの持ち出しを申請しましたが、いずれも認められませんでした(CNN)。徒歩や車のナビには精密な道路データが欠かせないため、韓国のGoogleマップは長いあいだ、経路案内の一部が欠けた状態のままでした。

2026年2月、許可は下りた。ただし条件つきで

この状況は、2026年に動きました。韓国政府は2月27日、国外持ち出しを審議する協議体でGoogleの申請を審議し、5,000分の1の地図データの国外持ち出しを条件付きで承認しました(大韓民国 政策ブリーフィング)。

条件は細かく決められています。軍事施設などを画像から隠すこと、座標の表示を取り除いたり制限したりすること、データは韓国内の提携企業のサーバーで加工してから、限られた形で持ち出すこと、などです(国土交通部の報道資料)。

では、もう普通に使えるのか。ここが、旅行の前に確かめておきたいところです。承認のあとも、徒歩や車の案内はすぐには始まりませんでした。2026年8月末の時点でも、海外のIT系メディアは、韓国でのターン・バイ・ターン案内を「近く提供される予定」と伝えています(9to5Google)。いつ、どの機能から、どの端末で使えるようになるのかは、出発の直前に、自分のスマートフォンで実際に徒歩経路を検索して確かめるのがいちばん確実です。

韓国の地図アプリは、日本語で使える

では、いま韓国の人たちは何を使っているのか。代表的なのは、韓国企業が提供する「NAVER Map(ネイバーマップ)」と「KakaoMap(カカオマップ)」です。国内のサービスなので、徒歩の経路も、どの出口から出ればいいかも、ふつうに案内してくれます。

韓国政府の広報サイトによると、NAVER Mapは韓国の同種のサービスで唯一、韓国語・英語・中国語・日本語の4言語に対応していて、外国人旅行者の利用がいちばん多いナビアプリだといいます(Korea.net)。韓国観光公社も、NAVER Mapと組んだ旅行者向けキャンペーンを行っています(VISITKOREA)。

Googleマップを捨てる必要はありません。店の口コミを見比べたり、日本で保存しておいた「行きたい場所リスト」を眺めたりするには、使い慣れたアプリのほうが便利です。ただ、「駅からホテルまで歩く」「路地の奥のカフェにたどり着く」といった最後の数百メートルは、韓国の地図アプリに任せたほうが迷いません。

出発前の夜に、二つのアプリを並べておく

現地で慌てないために、日本にいるうちに済ませておけることがあります。

5,000分の1の地図をめぐる事情は、この1年で大きく動いています。来年の今ごろには、この記事の前半は昔話になっているかもしれません。けれど、それを確かめるのは、仁川空港に降りてからではなく、日本を発つ前です。

ヘッダー写真: Tristan Surtel / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)