パリのレストランをお得に楽しむために初めに頼むべきものとは
「プラット・ウ・ガズーズ?(Plate ou gazeuse ?)」
パリのレストランで席に着き、料理を選び終えたころ、ギャルソンがこう聞いてくることがあります。ガスなしか、ガス入りか。日本人の耳には「お水はどうなさいますか」と同じ、ただの確認に聞こえます。そこで「プラット(ガスなし)」と答えると、しばらくしてテーブルに運ばれてくるのは、たいていラベルのついたミネラルウォーターの瓶です。そして会計のとき、その一本はきちんと伝票に載っています。
旅行者の体験談には、この「水にお金がかかった」という話がくり返し出てきます。ヨーロッパでは水は買うもの、と覚えている人も多いはずです。けれどフランスには、少なくともレストランの水について、ちょっと違う決まりがあります。
水は、1967年から「料理の一部」
フランスで飲食店の価格表示を定めた1967年6月8日の省令は、食事の値段に含まれるものとして、パンや調味料と並んで「普通の水(eau ordinaire)」を挙げています。食器やナプキンと同じく、食事をする客に当然出されるもの、という扱いです。業界紙L'Hôtellerie Restaurationも、レストランで食事をする客にはカラフ(水差し)の水を無料で出さなければならない、と説明しています。
つまりギャルソンの「プラット・ウ・ガズーズ?」は、無料の水をどうするかという質問ではなく、瓶の水を買うかどうかという質問であることが多いのです。無料の水道水がほしいなら、最初からこう頼めば済みます。
「ユヌ・カラフ・ドー、シル・ヴ・プレ(Une carafe d'eau, s'il vous plaît)」
「水差しの水をお願いします」。これで出てくるのは、ガラスの水差しに入った水道水です。
2022年、「無料で頼めます」と書くことが義務になった
それでも、頼んでいいのかどうか分からない、と遠慮する客はいます。そこでフランスは、この決まりを客の目に見える形にしました。
2020年の廃棄物削減・循環経済法(いわゆるAGEC法)によって、環境法典L541-15-10条は、2022年1月1日から、レストランや飲み物を出す店に対し、無料の飲料水を頼めることをメニューや掲示ではっきり示すよう求めています。目的はペットボトルごみを減らすことです。
メニューの隅に「eau potable gratuite sur demande(ご希望により飲料水を無料でお出しします)」のような一文があれば、それがこの表示です。見当たらなくても、頼むこと自体は何も失礼ではありません。
蛇口の水は、瓶の水よりも調べられている
「無料なのは分かったけれど、パリの水道水は飲んで大丈夫なのか」。ここがいちばん気になるところかもしれません。
パリの水道を運営する公営企業Eau de Parisによると、パリの水道水はフランスの公衆衛生法典が定める56項目の水質基準を満たしていて、保健当局が認めた外部の検査機関と、Eau de Paris自身の検査所の二重のチェックを受けています。自前の検査所だけで、年に30万以上の項目を分析しているといいます。パリ市も、パリの水道水は安心して飲めると案内しています。
もちろん、硬度や味の好みは人それぞれです。日本の軟水に慣れた舌には少し違って感じられることもあるでしょう。ただ、「安全のために瓶の水を頼む」必要は、パリではありません。
公園の蛇口から、炭酸水が出てくる
ここまでは「ガスなし」の話です。では、食事には炭酸水が欠かせない、という人はどうすればいいのか。レストランで出てくる無料の水は、水道水です。ガス入りがほしければ、そこは瓶を注文することになります。
ところが、この街には意外な逃げ道があります。パリの街角には、無料で炭酸水が出てくる公共の水飲み場があるのです。
パリ市の案内によると、2010年にルイイ公園に最初の「ラ・ペティヤント(La Pétillante)」が設置されて以来、市内には十数か所の炭酸水の給水所があり、炭酸水を無料で汲めます(パリ市 炭酸水の給水所)。故障などで使えないものもあるので、場所は出かける前に確かめておきましょう。
写真: Lionel Allorge / CC BY-SA 3.0
炭酸水に限らなければ、選択肢はもっと広がります。Eau de Parisは、市内に1,200か所を超える水飲み場があると案内していて、19世紀から街に立つ深緑色の「ウォレスの泉」もそのひとつです。さらに、「Ici, je choisis l'eau de Paris」の目印を掲げたカフェや美術館などの協力店では、水筒に水道水を無料で入れてもらえます。場所はすべてEau de Paris の給水マップで探せます。
こうなると、パリ歩きに持っていきたいのは、日本から持ってきた空のボトルです。ただし炭酸水を入れるなら、普通の水筒では圧力で栓が開きにくくなったり、噴き出したりすることがあります。炭酸対応をうたった炭酸OKの保冷ボトルなら、公園で汲んだ冷たい炭酸水を、午後の美術館巡りのあいだも冷えたまま持ち歩けます。
瓶の水を頼むのは、飲みたい一本があるときだけ
もちろん、エビアンやバドワ、ペリエといったフランスのミネラルウォーターには、それぞれの味があります。ワインのように銘柄を選んで食事に合わせるのは、楽しみのひとつです。飲みたい一本があるなら、迷わず頼めばいい。
変わるのは、頼む理由のほうです。「海外だから水は買うもの」「水道水は危ないから」という理由で瓶を頼んでいたのなら、それはパリでは当てはまりません。ギャルソンに「プラット・ウ・ガズーズ?」と聞かれたら、一呼吸おいて答えを選ぶ。カラフか、瓶か。その一言で、テーブルに届くものと、伝票の最後の一行が変わります。