仙台名物の牛タン、そのタンはどこから来ているのか
仙台駅の改札を出ると、3階のフロアには牛たん店がずらりと並んでいます。昼どきにはどの店にも行列ができ、店先には「仙台名物」の文字。厚切りの牛たん焼きに、麦ごはん、テールスープ。定食はちょっといい値段ですが、仙台まで来たのだから、ここは奮発しておきたいところです。
宮城県には「仙台牛」というブランド牛もあります。名物になるくらいだから、きっと地元の牛のたんを、地元ならではの食べ方で出しているのだろう。そう思いながら、列の最後尾に並びます。
「仙台名物」と書いてあるもの、書いていないもの
店先の看板やメニューをよく見ると、書かれているのは「仙台名物」「仙台牛たん」という言葉です。「仙台牛のたん」とは、どこにも書かれていません。
この違いについて、日本広告審査機構(JARO)は、仙台名物の牛たん料理の原材料が米国産であっても、表示上の問題はないと解説しています。表示しているのは「国産」や「宮城県産」といった原産地ではなく、あくまで「仙台名物」という料理の名前だからです(JARO「仙台名物料理の原材料が米国産でも問題ない?」)。
最初から、地元の牛ではなかった
JAROの解説には、もう一つ意外なことが書かれています。仙台の牛たん料理は、もともと地元産の牛肉を使っていたものが、貿易の自由化で輸入品に切り替わったわけではない、という点です。仙台の牛たん料理は、もともと輸入の牛たんを使って始まったとされています(同)。牛たんは牛1頭から1本しかとれない部位でもあり、地元の牛だけで名物の量をまかなうのは、はじめから難しい話でした。
いま仙台の牛たん店で使われている牛たんの多くは、アメリカやオーストラリアなどからの輸入品だと言われます。国産の牛たんは数が少なく値段も高いため、扱う店は限られます。
つまり、駅の3階で並んでいる行列の先にあるのは、ほとんどの場合、海の向こうから来た牛のたんです。
名物なのは、まな板の上の仕事
では、仙台の牛たんは「名物」と呼ぶほどのものではないのか。そうではありません。JAROも、独特の調理法によって地域の名物として認められた料理であり、国産でも米国産でも人気の名物料理であることに変わりはない、としています(同)。
写真: Sakurai Midori / CC BY-SA 3.0
厚く切ったたんに包丁を入れ、店ごとの下味をつけて、炭火で焼く。焼き肉店で薄切りのたんを自分で焼くのとはまったく違う食べ物になっているのは、この仕込みと焼きの手間のおかげです。麦ごはんとテールスープ、南蛮みその漬物を添えた定食の形も、仙台で生まれ、仙台で定着したものです。
定食の値段に含まれているもの
仙台の牛たん定食が安くないのは、地元のブランド牛を使っているからではありません。輸入した牛たんを、名物と呼ばれるまでに仕上げる手間の値段です。
そう知ってから食べる一切れは、少し違って見えます。分厚いのに歯切れがいいのはなぜか、切れ目はどう入っているのか。仙台で食べる意味は、素材の産地ではなく、まな板と炭火の上にあります。