アルゼンチン旅行、ドル現金を抱えていく前に知っておきたい2025年の変化

「アルゼンチンへは、きれいな100ドル札を持っていけ」。

数年前まで、これはアルゼンチン旅行でいちばん有名な助言でした。空港のATMでペソを引き出したり、カードで払ったりすると、公式の為替レートで計算されて損をする。けれど街の両替商に米ドルの現金を持っていけば、公式レートの倍ほどのペソが手に入ることもある——。旅行記やSNSには、今もこの話がたくさん残っています。

ブエノスアイレスの中心、フロリダ通りを歩くと、「カンビオ、カンビオ」と小声で両替を持ちかける人の話もよく出てきます。けれど2026年のいま、その「倍」は、ほとんど残っていません。

「倍」の正体は、二つの値段がある国だった

そもそも、なぜ現金の米ドルがそれほど得だったのか。

アルゼンチンでは長い間、個人が外貨を買う量が厳しく制限されていました。「セポ(cepo)」と呼ばれた為替規制です。公式のレートでドルを好きなだけ買えないので、人々は非公式の市場でドルを手に入れようとし、そこでの値段が「ブルーレート(dólar blue)」と呼ばれるようになりました。公式レートとブルーレートの差は、時期によっては2倍を超えるほどに開いていました。

旅行者が持ち込む米ドルの現金は、このブルーレートで売れました。つまり「100ドル札を持っていけ」という助言は、二つの値段がある国で、高いほうの値段で売れという意味だったのです。

2025年4月、二つの値段が一つに近づいた

状況が大きく変わったのは2025年4月です。アルゼンチン中央銀行(BCRA)は、経済プログラムの新しい段階として、為替レートを一定の幅(バンド)の中で変動させる仕組みに移り、個人に対する外貨購入の制限を撤廃すると発表しました(BCRA 経済プログラム第3段階の開始に関する発表、BCRA 為替バンド制度)。

誰でも公式の市場でドルを買えるようになれば、わざわざ非公式の市場で高く買う理由は薄れます。その結果、ブルーレートと公式レートの差は急速に縮みました。2026年9月22日の地元紙の報道では、公式レートが1ドル=1,535ペソ、ブルーレートが1,550ペソ(LM Neuquén)。差はわずか1%ほどです。

1万円分の米ドルを両替しても、得をするのは100円ほど。かつての「倍」とは、まったく別の世界になりました。

カードは、もう「損な払い方」ではない

では、かつて損だと言われたカードはどうなったのでしょうか。

以前の制度の下でも、外国で発行されたクレジットカードやデビットカードでの支払いには、公式レートより有利なレートを適用する仕組みがとられるようになっていました。そして今は、そもそも公式レートと市場のレートがほぼ同じです。日本のカードで払っても、現金を両替しても、受け取るペソの価値はほとんど変わらない状態になっています。

むしろ、米ドルの現金には、カードにはない手間とコストがついてきます。

「100ドル札を持っていけ」は、もう得をするための方法ではなく、手数料を二重に払う方法になりかけています。

それでも、現金が要らなくなったわけではない

ただし、「すべてカードでいい」とも言い切れません。

写真: Banfield / CC BY-SA 2.5 AR

旅行者の報告では、外国のカードでアルゼンチンのATMからペソを引き出すと、1回あたりの引き出し上限が低く、そのたびに手数料がかかるため、割高になりやすいといいます。一方で、小さな食堂や市場、地方の町、チップなど、現金のほうが話が早い場面も残っています。

そこで今の現実的な組み立ては、次のようになります。

古い助言が残る理由

アルゼンチンの為替は、この数年で何度も大きく変わってきました。そのため、ネット上には、書かれた時期によってまったく違う助言が並んでいます。3年前の旅行記では「絶対に現金」、今年の記事では「カードで十分」。どちらも、その時点では正しかったのです。

だから、アルゼンチンへ行く前に確かめるべきなのは、「どの払い方が得か」という結論ではなく、いま公式レートとブルーレートの差がどれくらいあるかという一つの数字です。その差が1%なら、分厚い封筒の100ドル札は要りません。もしまた大きく開いたら、そのときに初めて、昔の助言が意味を持ちます。

ヘッダー写真: Gobierno de la Ciudad de Buenos Aires / CC BY 2.5 AR(Wikimedia Commons)