アムステルダムの街歩きでは、足元に気をつけてほしい理由
アムステルダム中央駅を出て、運河沿いの街へ歩き出す。歩道は観光客でいっぱいです。ふと横を見ると、なめらかに舗装された赤茶色の道がまっすぐ伸びている。人も少ないし、歩きやすそうだ——そう思って一歩踏み出した瞬間、背後から「チリン!」。振り返る間もなく、自転車が肩のすぐ横をすり抜けていきます。
アムステルダムを歩いた人の旅行記には、この場面が驚くほど繰り返し出てきます。自転車道と知らずに歩いていてベルを鳴らされ、あからさまに険しい顔をされた、怒鳴られている観光客を何度も見た——。この街で最初に覚えるべきことは、美術館の場所でも運河クルーズの乗り場でもなく、「足元の色」かもしれません。
いちばん歩きやすそうな道が、いちばん歩いてはいけない道
アムステルダムで赤茶色に塗られた道は、ほぼ間違いなく**自転車道(フィーツパッド)**です。車道とも歩道とも区別できるよう、わざわざ色を変えてあります。見分けるポイントは3つです。
- 路面が赤っぽいアスファルト、または赤いレンガ
- 路面に白い自転車マークが描かれている(I amsterdamでも、自転車レーンは白線と自転車マークで示されていると案内されています)
- 自転車の絵がついた専用の信号機がある
写真: W.-D. Haberland / CC BY-SA 4.0
厄介なのは、この自転車道のほうが歩道よりもきれいで広く見えることが多い点です。そしてこの街では、そこを走る自転車の数が桁違いです。市の調査では、市内にある自転車はおよそ88万1,000台と推計されています。専用の自転車道は、I amsterdamで約400kmと紹介されています(数え方によって数字には幅があります)。住民にとって赤い道は、観光のための遊歩道ではなく「生活の幹線道路」です。
たとえ誰も走っていないように見えても、自転車道の上で立ち止まって写真を撮ったり、地図を開いたりするのは避けましょう。市の公式観光サイトI amsterdamでも、歩行者が自転車レーンに出るのは危険だと注意されています。
「チリン」は叱られたのではなく、「通ります」の合図
それでも、うっかり踏み込んでしまうことはあります。そのときに鳴るベルを、「怒られた」と受け取ってしまう人は少なくありません。
けれど、現地のサイクリングマナーを紹介する記事では、ベルを1〜2回鳴らすのは、遅い自転車や自転車道に迷い込んだ歩行者に「追い越しますよ」と知らせる普通の合図で、しつこく鳴らし続けるのは攻撃的だと受け止められる、と説明されることが多いようです(公式のルールではありません)。
つまり一度「チリン」と鳴ったら、慌てて左右に飛びのく必要はありません。後ろを確認し、落ち着いて歩道側へ戻ればそれで十分です。自転車の側も、予測できない動きをする歩行者がいちばん怖いのです。
静かなものほど、速い
では、「チリン」さえ聞き逃さなければ安心かというと、この街にはもう一つ、音の小さい相手がいます。
以前のアムステルダムでは、最高速度25km/hの小型スクーター(スノーフィーツ)も自転車道を走っていました。これは2019年から、環状道路A10の内側の大半の道路で車道へ移され、2023年からはオランダ全国でヘルメット着用も義務化されています。代わりに近年問題になっているのが、太いタイヤの電動アシスト自転車「ファットバイク」です。
ファットバイクのアシストの法定上限は時速25kmですが、違法に改造して速度を上げたものもあり、警察の検査では、調べた車体の半数以上が法定速度を超えるよう改造されていたといいます。市の交通担当助役は、ファットバイクへの苦情が数年前の20件ほどから2,000件以上に増えたと話しています。アムステルダム市は2026年5月11日から、市民の憩いの場であるフォンデル公園でタイヤ幅7cmを超えるファットバイクの走行を禁止しています。
電動の自転車はエンジン音がしません。さらに、市内を縦横に走るトラムは多くの交差点で優先とされ、駅前ではトラムと自転車が入り乱れます。この街を歩くとき、耳は目と同じくらい大切な安全装置です。
美術館の音声ガイドや、街歩き用の音楽を聴きながら歩きたい人も多いはずです。そんなときにカナル型のイヤホンで耳をふさいでしまうと、背後のベルも、近づいてくるトラムの音も届きにくくなります。耳を塞がないオープンイヤーイヤホンなら、耳の穴を開けたまま音を聴けるので、ガイドの声を聞きながら、後ろから来る「チリン」にもちゃんと気づけます。
赤い道の手前で一度立ち止まり、足元の色と、背後の音を確かめる。それだけで、アムステルダムの街歩きは、ずっと穏やかなものになります。
ヘッダー写真: MrAronymous / CC BY-SA 4.0